注意!
 
若いころの半蔵さんの話を強烈に捏造しております。
捏造上等!の方のみの閲覧でよろしくお願いいたします。
史実とか年齢とか、もう一切が捏造ですので、ご注意ください。
読後の苦情などには一切お応えできませんので、どうぞよろしくお願いいたします。
 

はたとせ



「ちょっと、あれ見て」

 一緒に町に買い物に出た同僚の一人がの肩をつついて路地の方を指すので、つられてそちらへ顔を向けると、路地の向こうに、若い男が一人長屋の壁に背を持たせかけて、所在なさ気にぽつんと立っていた。

「どっかの若衆かしら?いい年して前髪降ろして」
「でもほら、右目の、傷」
「あれじゃあ、ねぇ」
「傷がなければそこそこにいい男だけど」

――右目に、傷?それってもしかしてこの間の――

 くすくすと同僚達が笑いなが噂しあう声を聞いて、同僚達の肩を押しのけて本格的にその男を観察する。

 もう一月ほど前に城の庭で夜中に出くわしたけが人。
 はそれを助け、お互い名を告げあった。
 とはいえ、たったそれだけの出会いであったので、あれは夢だったのではないか――と思い始めていたところだったのだ。
 その男の右目にも、確か大きな刀傷があって、はその血を拭い、薬をつけた生々しい感触を思い出していた。

――若い――確か、あの時の方は、顔はあまりはっきりしないけれど、錆びた渋い声をしてらして、もの言いももっと年の上の方におもったけれど…人違いかしら――。

 と、彼女の視線に気づいたのか、男は顔を上げ、それでもやっぱり所在なさ気な顔。
 じーっと自分の左手を睨みつけた後、おずおずとそれを上げ、こちらを見ながら左右にふった。

――やっぱり、半蔵さま?――

「ちょっと、こっちに手を振ってるわよ」
「やだ、誰かのいい人?」
「うそ、誰よ」

 顔を真っ赤にしながら、おずおずとは手を上げた。

「あんたなのっ」
「いつのまにあんな男つくってんのよっ」

 同僚達の非難は轟々でだった。
 実はあれは親戚の――などと言い訳をしてみても、つい先頃両親をなくし天涯孤独の身となったと、自分で言ってきただった。
 誰も信じてくれやしない――が、

「わかったわかった」
「当番のお局様にはうまいこと言っておいてあげるから」
「さっさと行ってらっしゃい」

 美しき女の友情で、ある。

 は何度も同僚に頭を下げて、夕餉までには帰るから――と男の方に走り去って行った。

「夕餉までに帰ってくると思う?」
「微妙ね」
「じゃあ、緘口令は、夕餉が終わるまでって事で」
「終わったらしゃべっていいのね」

 げに恐ろしきは女の友情で、あった。
 
 さて、後方の事は露とも知らず、は急ぎ足で男の元に駆け寄る。
 だが、見れば見るほど、近づけば近づくほどあの夜の男は違うのではないか――と不安になってきた。
 黒装束に鋭い眼光、ことさら感情を抑え付けた武士めいた重い物言い。
 なによりあの夜の鬼気が、目の前の男からは一切感じられなかったのだ。
 そこそこの若さと言えど、元服は済んでいそうな歳には見えるのに、前髪をたらりと降ろし、伸ばした髪を無造作に後ろで束ねて、目付きは確かに鋭い――というか悪い方ではあるとは思うが、なにより口元がなんとなくだらしない。

――紺の着物に薄藍の袴を合わせて、そりゃあそれなりにどこかの若侍っぽい恰好をしてるけど――

 自分は、ひどい勘違いをしたのではないか――と、は気づけば男の手前で、頬に手をあててまじまじと男を観察しながら小首をかしげていた。
 
 困ったのは男である。
 上げた手を下したものかどうしたものか、しかも目前でじっと観察されているのもむずがゆいものだ。
 とはいえ、相手が警戒しているものを、無理に声をかけるのも憚られるし――と、気付けば男も、所在のなくなった手を頬に当て、小首をかしげて立っていた。
 
 しばしの時が流れる。
 
 先に、自分たちのおかしな行動に気がづいたのは、であった。

「やだ」

 若い男をまじまじと見ていた自分に赤面しつつ、歩を詰めて
「あの、半蔵さま?」
 おずおずと問いかけた。

 男もはっと我に返り、頬を掻くと。


 と、声を発する。

 途端にの頬が赤らんだ。
 間違いなくあの夜聞いた、錆びた渋い声。
 とても目前の男が発しているとは思えぬ程の男らしい声音であった。

「その節は、世話になった」

 頬をかきながら照れくさそうにぽつりと言う言葉も、確かにあの時のモノ。
 ほっと安心して、同時に不安になった。

「半蔵様、目」

 半蔵の右目は、先ほどから閉じられたままだったので、あの夜は浅い傷だと思っていたが、もしや――と思ったのだ。

「否、開けにくい、だけ、ゆえ」

 口をへの字に曲げたまま、小さく頷いて――大丈夫だ――と言っているような半蔵に、は少し違和感を覚えた。
 しかし、目の事に関しては嘘ではないらしく、無理に開ければ中からよく動く琥珀の瞳が覗いて、ちゃんと見えてはいるらしかった。

「よかったぁ」

 は胸をなでおろす。

「それで――」
 半蔵は口ごもる
「はい?」
 なんだろうと、が顔を上げると
「よいか」
 なにがだろう?と、はまた小首をかしげた
「――務め」
「ああ!夕餉の頃までなら大丈夫です」
 やっと意味がわかり、にっこり笑うの顔を眩しそうに見つめてから、はっとしたように半蔵はぷいと視線を外し、

「茶屋」
 とぽつりと言った。

 これは、おかしい。
 は思った。
 なんでこの人はこんな片言なんだろう。
 なんだか言葉を選び選びしゃべっているような気がして、先ほどの違和感を思い出す。
 よくわからないまま、ええいままよと奇声を発してみた。

「ええっ!昼間から連れ込み茶屋なんて、私そんなの無理です!」

 なかなか大胆な作戦であった。
 もちろん、半蔵の言った茶屋が、普通の団子屋かなにかだと云う事はわかっていたが、ここはひとつ揺さぶりをかけてみようと、そう思ったのだった。
 
 果たして、作戦はまんまとうまく行ったといわねばならない。
 飄々とした素振りをしていた半蔵の顔が、の言ったことを理解した途端、みるみる朱に染まり、
「ちょ、おまえ、なんて事を云うんだ!」
 渋い声は取り乱して、さっきまでの口調とはまったく違う言葉を吐き出した。
 
「やっぱり」
 してやったりと、は笑みを漏らす。
 それを見て半蔵も、しまったと己の口に手を当てたがすでに遅かった。

--

「なんで、そんなしかめっ面しいしゃべり方するんですか」
 粛々と、の馴染みの団子屋に連行され、目の前で団子を食べながら質問されて、半蔵がうなだれて応えるには

「拙者――俺は、今大きな仕事を任されて、若輩の癖にとか、頼りないとか、散々悪口を言われてるので、その、見た目の頼りなさはどうにもならんが、喋り方くらいはちゃんとした方が良いのではないかと助言されて」
「ちゃんとされてると思いますけど」
「あまり、喋るのは得意ではないのだ。 だが立場上、なんというかあれこれ指示をしたりせねばならんし、その時に、あのぉだそのぉだと、言ってられんだろ」
「あ、だから、片言なんだ。 指示は的確に短くってうちの女中頭がそういう人なんです」
「そうか」

 半蔵はため息を漏らす。
 口には出さぬが、苦手なものはもう一つあり、それは女人であった。
 今回の一件を聞きつけた知己の一人が「それは半蔵、その女人に礼を言いにいかねばならぬぞ」と半ば強引に言われて来たのである。

「でも、あの夜の半蔵様は確かに片言だったけど、それが変には感じなかったんですけどねぇ、なんでだろ」
「良く言われるのだが――」

 半蔵は仕方なしといった素振りで、懐から黒色の布を出して、あの折のように口布代りに顔の半分を覆った。

「手当て、謝す」

 口を覆ったまま、そう言われた瞬間に、はずさささっと後ずさる。

「別人」
「うむ」
「もてるでしょ」
「うむ、もてる」

 口にあてた布を外しながら、憎たらしく肯定する半蔵の口元は、にんまりと笑みをつくっていて、再びは後ずさった。

「別人」
「うむ」
「もてないでしょ」
「うむ、まったく」

 一瞬後、二人は思い切り吹き出して笑った。

「おっかしな人」
「貴様の方がおかしいと思うぞ」

 笑いながらも、の皿の団子がなくなっている事に気づいて、半蔵は己の皿の団子を差し出すと「女将、茶を所望」と奥に声をかけた。
――なんて気の利く人でしょう――
 密かには感嘆し、口に出しては

「食べないんですか?」
「うむ、甘いのは苦手なんだ」

 笑い合った事で少し気を許したのか、現れた女将の茶を受けながら、どことなく可愛らしくそういう半蔵を見て、ふと、は聞いてみた。
「あの、半蔵さまってお幾つなんですか」

 途端に、半蔵の口元がへの字に曲がり「二十…三」と答えたが――絶対嘘だ――直観的に理解する。
 そして気づいた――この人、嘘つく時や、言いにくいこと言う時に口がへの字になるんだわ――

――と言う事は…さっきこの人、目の話をする時も口をへの字にしてなかったかしら?――

「半蔵様、右目、本当に大丈夫なんですか?」

 突然の話題の転換についていけず、しかしその疑問は確信をついていたらしい。
 半蔵はしばし迷ってしてから「少し、まずいかもしれないのだ」と呟いた。
 聞けば、眼球そのものは無事であるらしいが、瞼の筋を切り離されていて、うまくつかねば瞼が開かなくなるかもしれぬ――と。

「そんな――」
「でも、そのお陰でこうして休みを取れる事になった」

 心底それが嬉しそうに、にっこりと笑った。

――おかしな人――
 あの夜であった時は、本当に恐ろしい人殺しに見えた男が、今はただの若造にしか見えない。
 そして、その両方ともが、なんだかとても好ましくて…。

「お休みは、いつまでなんです?」

 半蔵の笑顔につられたように、は笑って聞いた。

「瞼が動くまで」
「じゃあ…」
「また、会ってくれるか?」

 の言葉を手で遮って、少し頬を赤らめて言う半蔵を見つめて、は少し冷めた茶をずずずっとすすりながら、うふふと笑った。

「本当のお歳を教えて下さるなら」

 勿体ぶってからそう答えると、男は少し驚いた顔をした。
 それからぼりぼりと頭を掻きながら――

「二十歳」

 そう応えて、こちらを伺うようにちらりと見た。

――同じ歳じゃない――
 内心びっくりしながらも、これからの事を考えて、はやっぱりうふふと、笑った。


end

あとがき

久し振りの、本当に久しぶりのドリームですwww
えーと、ドリームってこんな感じでいいんだろうかと、まだまだ模索中でしてwww長い目で見てくださったらありがたいです。
気持ち的には、普段の文章より軽くしたいんですがね(苦笑) ええ、撃沈しましたwww
が、がんばります\(^o^)/
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